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新米猟師カエデのマルチ狩猟ブログ

狩猟

【鹿VS猪】有害獣の代表は? 鹿と猪はどちらの被害が大きいか

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【害獣】という言葉を聞いて、あなたはどの動物を思い浮かべますか?

私は猪を一番に思い浮かべます。農家が必死に育てた作物を全滅させる破壊神ですからね。

 

狩猟や農業をしていない人でも、害獣の種類を問われれば最初に鹿か猪と答えると思います。

 

では、鹿と猪はどちらの方がより【害獣】であると言えるのでしょうか。

 

今回は平成29年度の農林水産省及び林野庁のデータを引用し、全国の野生鳥獣による農作物被害状況による被害額の大きさと、農作物以外の被害、林業や環境への被害を含めて判断してみたいと思います。

 

※この記事は3分で読めます。

 

害獣とは

猪鹿蝶大辞林によれば、害獣とは【人畜に危害を加えたり、田畑を荒らしたりする獣】ということです。

ときどき「人間の方が害獣だ!」という意見を頂きますが、上の説明の”人畜”と”獣”を入れ替えればたしかにその通りかもしれませんね。

※ここでいう”害”とは、人間から見て害があるから定義した話であり、決して動物の存在を害であると貶めるためのものではありません。

”害獣”という言葉は便宜上の言葉ですので、某ジブリ映画の中の問答はまた別の問題だったりします。

 

鹿と猪に対して抱く一般的なイメージ

奈良公園ではつぶらな瞳をしたかわいい鹿に会うことができますし、車で田舎を走っていればすれ違うのはだいたい鹿のほうです。のんびり草を食べていますよね。

逆に猪は比較的人前に現れにくく、なんとなく凶暴で恐ろしいイメージがあるかもしれませんね。

他にも鹿と猪は日本の神話や物語などに登場したりするなど、古来からともに日本人にとってなじみ深い動物であると言えるでしょう。

 

鹿と猪の農作物への被害額は?

農林水産省 平成29年全国の野生鳥獣による農作物被害状況

 

前置きはこれくらいにして、実際のデータを見てみましょう。

資料によれば平成29年の鹿の被害は約55億円、猪の被害は約48億円ですね。

農作物への被害額は、鹿の方に軍配が上がるようです。これは意外でした。

 

猪は被害金額以上に農家に恨まれている

「じゃあ鹿の方が有害なんじゃん!」と思いますが、ちょっと待ってください。

 

私見ですが、害獣というイメージは猪のほうが強いのではないでしょうか。

 

「畑のスイカを全部食べられた!」「イモを全て掘り返された!」など、田舎のおっちゃんおばちゃんの嘆きはもはや毎年の話のタネです。

茶の間では面白おかしく語ったりもしますが、畝作りから始めた作物が収穫前に全滅させられて、内心穏やかではないでしょう。

 

一方、鹿は作物の芽を食べて回るのが精々です。もちろんその被害は大きなものですが、収穫直前の作物を食害されるほうが精神的なダメージは大きいということなのかもしれません。

この資料だけで結論を出すのは少し早いでしょう。

 

被害面積と被害量は圧倒的に鹿が大きい

小規模な畑を全滅させたり、派手に地面を掘り返したりと、目に見えて被害をもたらすのは猪のほうです。

しかし被害面積は

鹿が35,400ヘクタール、イノシシはわずか6,700ヘクタールです。

データを見る限り、鹿の方が5倍以上の面積へ被害をもたらしているようです。

被害量においても、実に10倍以上の開きが見られますね。

 

これは同じ農作物への被害でも、鹿と猪の食性の違いから来ているということなのでしょうか。

畑に密集して実った作物を食い荒らす猪と、広い田んぼと麦畑の新芽を食害して回る鹿の違いということだと思います。

被害面積の割に猪の被害額が大きいのは、畑に実った高価な果物などを根こそぎ全滅させるからでしょうか。見当違いのことを言っていたら申し訳ないです(汗)

 

いずれにせよ。

 

ここまでの結論として、被害面積、被害金額ともに大きいのは鹿である。つまり鹿の方がより【害獣】であるということになるのですが…。うーん。

データを見るだけではピンとこないというか、農作物被害状況では鹿の方が被害が大きいのは事実なのですが、私の中で「猪のほうがやばいやろ」という偏見が頭を占めていまして。

 

害獣による被害の種類

農作物への被害に限らず、もっと大きな視点から考えてみたいと思います。

害獣の被害と聞いてまず思い浮かべるのは田畑への被害ですが、鹿の被害については、実はそれだけではないのです。

 

森林被害と環境破壊

森林のシカによる食害

 

鹿による被害を語るうえで外せないのが、【森林被害と環境破壊】についてです。

それらは主に新芽や木の皮を食べることによる食害で引き起こされます。

 

「その話はさっき聞いたよ?」と思うかもしれませんが、かなり深刻な話なので簡単に語らせてください。

 

稲や麦の新芽、果樹の葉や皮の食害が農作物への被害となっていることは説明したとおりです。

でも、自然の中には野生の植物が多く自生していますよね。

植物は種から新芽を伸ばし、やがて成長していくわけですが…。

鹿が増えれば、そういった貴重な植物の新芽を根こそぎ食べてしまったり、成長した木でも皮を食べたり角で傷をつけたりして立ち枯れさせてしまうことがあるのです。

 

近年から爆発的に増加した鹿は本来の生息域をはるかに超えて広がり、イナゴの群れのごとく植物を根こそぎ食べつくしています。

貴重な高山植物を絶滅の危機に追いやり、植物が食べつくされて死の山と化した場所では本来植物が持つ保水力を山から奪い、雨が降った時の土砂崩れの危険を大きく高めます。

緑豊かだった土地が剥げた荒れ地となれば、そこに生息していた小型の動物や昆虫は暮らせなくなります。

 

鹿は食事というごく当たり前の行動をしているだけなのですが、それでも多くの命を危機に追いやっているのです。

 

そして増えすぎた鹿が周辺の植物を食べつくせば、やがて鹿そのものが餓死によって大きく数を減らすでしょう。

それが原因の一つであるかははっきりとはわかりませんが、私の地方の山では冬に捕えた小鹿はガリガリで今にも倒れてしまいそうな個体がいます。木の皮を削った跡を頻繁に見かけます。

 

長い目で見れば、鹿の大量死も含めて自然のサイクルなのかもしれません。

しかし人間はちっぽけな存在であり、下手をすればその自然のサイクルに巻き込まれて大きな被害に遭うことでしょう。ゆえに人間は人間のために害獣を定め、それを管理しようとしています。

問題の核心は、ただ鹿を殺す殺さないの話とは別のところにあります。

 

動物の個体数を管理しない方が、結果として大量の命を奪う結果につながることもあるのです。

その原因や是非についてはまた別の問題で、迫る課題に対処するのは生物として当然の事でしょう。

 

少し脱線してしまいましたので話を戻します。

 

猪については昆虫やキノコ、ドングリなどを食べる草食よりの雑食で食欲こそ旺盛ですが、鹿のように生態系に大きな影響を与える食性ではないのです。

 

この点に関しては、鹿は猪をはるかに凌ぐ害獣であると言えるでしょう。

 

マダニやヒルを連れて来る

野生動物の分布の変化は、マダニやヒル、病原菌などを媒介し拡散させます。

鹿や猪の個体数が増えれば、あふれた個体がえさ場などを求めて広範囲へ散っていきます。

そうして新しい場所に移動するときに、もともとその場所にはなかった生き物を連れて来るわけですね。その時に、人間にとって有害な存在を運んできてしまうこともあるのです。

これは鹿も猪も同じであると言えます。

 

鹿は環境に大ダメージを与える

29年度森林被害

 

農作物への被害では良い勝負をしていた鹿と猪ですが、”主要な野生鳥獣による森林被害面積”という資料では、

鹿が猪の470倍の森林被害面積を生み出しているということがわかります。

 

鹿の森林被害面積は4700ヘクタール。それがどれくらいかと言いますと。

東京ドームの広さが4.7ヘクタールらしいです。

つまり、毎年東京ドーム1000個分の森林が鹿に食い荒らされているということですね。

 

農業においても大きな被害をもたらしている鹿ですが、やはり森林被害という面から見ると、猪に比べてはるかにやっかいな存在であるようです。

 

有害獣被害額の算出法は?

具体的な算出方法については説明を発見できませんでした。すいません。

参考にした資料には”都道府県の報告をまとめている”とあるため、農業従事者などが申告する被害や適応した保険金額と、それにいくつかの推計を足して計算しているのではないかと考えています。

”農作物被害状況”だけで鹿の方が猪の被害を上回っているのは私としては意外な結果です。

稲や麦の新芽食害による保険金の額が大きいからなのかなと考えていますが…。

 

データに反映されない被害がたくさんある

都道府県などの報告を合算して算出している数字はあくまでも一つの目安に過ぎず、実際の被害総額はさらに大きなものである可能性が高いでしょう。

 

田舎のおじいちゃんおばあちゃんの悔し涙

動物と交通事故

データに出てこない保険適用外の被害、具体的には”趣味農家の嘆き”がこれに含まれます。

自家消費分だけを生産する場合、どうしても害獣被害に対する備えが疎かになりがちです。

そして猪に全滅させられます。しかし…

「この畑の規模で被害報告をするのは…。めんどくさいし、作物が返って来るわけでもないから…」

と泣き寝入りのような形になってしまうのですね。

 

そういった被害の情報は田舎に住んでいれば絶えず入ってきますので、知らず知らずのうちに猪のほうが深刻な被害をもたらしていると考えるようになっていたのかもしれません。

 

動物との交通事故は物損事故扱い

車で走っていて野生の動物と追突事故を起こしても、保険のプランによっては保証がされません。

対物賠償保険の扱いになるため、自賠責保険は使えないのです。

保険が使えても、等級がダウンしてしまい結果として損をする場合もあります。

鹿や猪に賠償を要求したら、葉っぱと糞で払ってくれるかもしれませんが…。あ、私は猟師だから肉を要求しますよ(猟師ジョーク)

 

田舎で動物が轢かれて死んでいることは日常茶飯事で、割合としては猪よりも鹿の方が圧倒的に多いです。考え方次第では、死んでいる鹿の数だけ車を凹ませた人がいるということです。

ある意味、これも鹿による害獣被害と言えなくはないです。これを被害総額に算入すればけっこうな数字になりそうですよね。

 

結論:野生鳥獣ナンバー1の害獣は鹿である

この記事を書くために調査を行うまで、私は猪のほうが被害が大きいものと思い込んでいました。

鹿による環境破壊や森林被害については知識として知っていましたが、鹿が環境へ与えるダメージがここまで大きいとは考えていませんでしたし、農作物被害状況ですら鹿が上回っているのは本当に意外な事でした。

結論として、私は偏見を持っていたようです。つまり鹿と猪では、

鹿の方がより人間へ大きな影響を与えうる害獣である

ということがわかりました。

 

もちろん畑を猪に全滅させられた人は、猪のほうが鹿より害悪であると断じる人もいるでしょう。

ここでの結論はあくまでも高い視点から見下ろしてのものであり、実際に被害に遭われた方の無念を拾えてはいません。

 

私が「自宅の柿を食べるアナグマやカラスを捕まえて食ってやる!」という動画を投稿した時、

「柿くらいでなんでそこまでするんだ。残酷だし貧乏なんだな」とコメントで言われたことがあります。

 

何に価値を感じ、どこまで行動するかはその人を取り巻く環境によって大きく変わります。

何事もその人の立場になってみないと理解しにくいことは多く、軽々に他人を非難するのは良くないなーと思いました。

「おめーの趣味部屋にアナグマ投げ込むぞゴルァ!」とパソコンのモニターに向かって呟きましたね。叫べません。ええ。

 

参考までに、この動画です。次の溺殺処理はyoutubeのガイドラインにより年齢制限がかかっています。

 

普段はなかなか自分から調べることはない省庁のデータには、目から鱗が落ちるような情報が転がっているようです。これを機に、意識的にそういったデータに目を通してみるのも良いなと思いました。

次記事では”害獣による被害額の推移や、猟師や農家の取り組みによる変化”なども追ってみたいと思います。

読んでいただきありがとうございました(*'ω'*)

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カエデ

兵庫で猟師とパソコン先生をしているカエデです。 アウトドア派に見せかけたインドア&ネット大好き男性です。 29歳になりました。新しいこと、感銘を受けたことにはとりあえず手を伸ばしてみるタイプです。 狩猟、パソコン出張教室開業、警備員、動画投稿、株、絵師、将棋、ハーモニカ、ラノベ作家、医薬品登録販売者、仮想通貨、海外一人旅、ネトゲ廃人など、気付けばいろいろやっていました。

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